O氏の治療歴, 番外編:『免疫』

自然免疫と獲得免疫――体を守るメカニズム

自然免疫とは?

私たちの体には、ウイルスなどの病原体を含めて外部からの侵入を防ぐためのメカニズムが2種類備わっています。それが、自然免疫と獲得免疫です。その仕組みと特徴をご説明しましょう。

まずは“自然免疫”から。病原体が体の外から内側へ侵入しようとすると、最初に物理的・化学的バリアーが立ちはだかります。すなわち、皮膚や粘膜などに存在する殺菌性物質が病原体の侵入を物理的・化学的に防いでいるのです。ただし、ここに穴が空いていると病原体は内部に侵入してきます。そこで次に、白血球の一種である食細胞が病原体を食べたり殺菌したりして病原体を排除する、細胞性バリアーがはたらきます。この2段階のバリアーは通常、生まれつき自然に備わっている免疫機構であることから“自然免疫”と呼ばれます。

自然免疫の特徴は、病原体の侵入に反応するスピードは速いけれど、一度経験した病原体を覚える(免疫記憶といいます)仕組みがないので、再び同じ病原体が入ってきたときに同じ反応を一から繰り返さなければならない点です。

獲得免疫とは?

もう1つの免疫機構が、“獲得免疫”です。病原体が自然免疫の2つのバリアーを突破してしまったら、白血球のうちBリンパ球(B細胞)とTリンパ球(T細胞)の出番です。これが2つ目の細胞性バリアーとして機能します。Bリンパ球は抗体をつくって病原体を排除し、Tリンパ球は感染した細胞を見つけ出して退治します。この免疫機構は生まれてから獲得し発達するため、“獲得免疫”と呼ばれます。

獲得免疫の特徴は初めて出合う病原体の侵入に反応するスピードが遅く(侵入を認めてからリンパ球が増殖し、一定程度まで増えないと撃退できない)、一方で免疫記憶によって一度経験した病原体を覚え、同じ病原体が再び侵入してきたとき速やかに防御できる点です。

出典: 自然免疫/獲得免疫のメカニズム

O氏の治療歴, そして今これから。その21

間に一週間を置いて、7月12日から26日までの毎週あと3回のタクソル・キモセラピーになる。お休み期間中にO氏にはさほど変わったことはなかった、けれどお腹の膨らみ、空腹時の吐き気、下痢、一度回復した蜂窩織炎(ほうかしきえん) の小さな炎症が始まったことと急速にO氏の頭部、耳の後ろ、それに額と頬、ま、いわば全体にぷつぷつが出現。なんであれ、身体内部に潜んでいるよりは身体外部に出てくれる方がS君にはありがたい。即、診療看護師に連絡。診療看護師 =主治医と同等の知識や体験を持ち、とっさの判断や処置を的確に遂行する。

12日の結論;血小板減少が甚だしいので七回目のキモはストップ〜延期。理由は、タクソルの副作用。なので来週までの1週間は再び、分子標的薬と抗凝固剤とむくみ治療薬の三つ巴。

20年以上とてもお世話になったS君のお友達 Kさんの病院に、Kさんの介護さんと共に付き添いで出かけた。O氏のキモ治療が終わるのは大抵遅い夕方になるので、時間的にも都合良いかな、と。ところがこの日のキモはキャンセルで、いつものチェックアップだけだったのね。で、O氏は大事をとって早く帰ってしまった。治療がメイン、加えての猛暑で、O氏自身がニューヨーク市内でやりたいこととか人と会うこと、など今もってちょっとも果たせていない。

何年もS君の中でのわだかまりがある、それは ”免疫” のこと。O氏には約1年順調だったイミュノセラピーが突如豹変。肺がグレーゾーンに覆われ、1、免疫治療の重篤な副作用 2、コロナに罹患しての肺の病変。。 このいずれかが疑われて結局は免疫治療による自己免疫疾患、とわかった。(このことはすでに書いているので割愛)そして、この12日にタクソル・キモ(抗がん剤)の副作用(つまりは薬剤性血小板減少症)が判明。その経緯を調べていると、この ”血小板減少症” は昨年以来のコロナワクチンの副作用でも似たような症例が多数出ていることがわかった。。こちらは、血小板減少症を伴う血栓症と呼ばれている。

S君の頭の中では コロナ疾患症状=ガン免疫治療の副作用 → コロナワクチン(免疫ワクチン)=化学免疫治療 → ワクチン副作用=化学治療副作用 と、何やら重なってしまう。この共通するファクターは ”免疫” が、そのキーワードというのかな、。

〜〜〜 続く

O氏の治療歴, そして今これから。その20

『根拠のない自信は大切』思わず拍手。この一節は、S君のお気に入りの闘病ブロッガーさんからの抜粋であります。グダグダ理由は良いから、まずは単純に自分を敬い自信を取り戻す。ことに、治療の過程で単純に、”治ってきている” と信じていよう。

ずいぶんと昔のこと、S君は、アンバランゴダ(スリランカ) に飛んだ。それはその地でとみに有名な、悪魔祓いの仮面舞踏を習うため。もっともポッと出の旅人に始めから伝授してくれる師は見つからない、その代わり地元の少年・少女の練習風景を日々眺めに出かけた。病気は、病魔という魔物がその人間に取り付くことで生じる、と信じられていた。そこで、それら体内に巣食う病魔を退散させるための仮面劇・悪魔祓いの踊りが発達したということらしい。

では、確実に病魔を怖がらせ、退散させるものはなにか 〜〜〜 ”笑い” なんですね。悪魔祓い(病魔払い)、このコンセプトに感動した血気盛んなS君はスリランカに飛んだんですね。

〜〜〜 さて、病院も一週間はお休み。O氏も一息入れられそうかな。しばらくは分子標的薬と抗凝固剤、浮腫みの落ち着くまでのウオーターピル、の3本立てで楽しくやりましょう。診療看護師曰く、治療による効果とその副作用のいたちごっこでいかにS君が日々憂慮しているかはよおくわかっています、とのこと。

O氏からも、”いかにS君がストレスを背負い込んでいるか、そしてそれはS君がO氏を深く愛するがゆえに、二人の間の距離感が密着してしまい、文字通り、毎分毎秒の一喜一憂状態。本当にごめんね、どうもありがとう” と泣きながら言われた。

いつだったか、こちらのヒーラー、Ms. F. V. に、『あなたの過去生は一度、ダイナミックヒーラーだった。そしてその危険なヒーリングの名残がある』と言われたことがある。今更のようにS君はその言葉を思い出す。つまり、相手の不具合な状態を全て肩代わりして自らの身体に移行させ、我が身を持って相手を完治させる。。。いや、それはないでしょう、だって、S君は自己免疫疾患もあれば左足の不具合もあるんです。でも、、、これらの事故が他者でなくて自分に起こって良かった、と真実思っている。そしてこのような介助人生活をO氏が与えてくれたのもありがとう。介助を通してS君は限界に挑む。介助の楽しさと介助の豊かさ、さらにまたアイディアが沸き起こる。

〜〜〜続く

O氏の治療歴, そして今これから。その19

心を図太く保つにはちょいと荷が重い、という心境のS君でありますな。。感情と一緒に縄跳びしちゃってるのか知らん? ぴょんぴょん行ったり来たり。

O氏のタクソル・化学治療キモセラピーは6月28日を持って6回目終了、一週間のお休みののち、後3回受けねばならない。7月も終わってしまうだろうな。減薬〜休薬〜 は限りなく遠い、ので視点を変えて、すでに休薬・断薬をしている現在、というイメージ、その地点から、あたかも過去を振り返るような形式で書いても面白いかも? あるいはそのように潜在意識を明快に納得させるとか。

6月29日、O氏は再びフロセマイド(浮腫み緩和剤)を取り始める。分子標的治療薬ローブレナをコンスタントに取る以上、浮腫みが反作用でやってくる。元々の肺がんからの血栓予防の抗凝固剤エリキュイスはそのまま、加えてまだまだキモ薬タクソルは注入されるし、再び、例の、タクソルの副作用を緩和させて白血球をサポートせねばならない自動ショット・ぺグフィルグラスティムがO氏の左上腕にひっついていて、29日の夕方には驚く正確さでショットがなされる。ほんと、舌を巻くとはこのことね。

O氏の身体内は長年の放射線や化学治療による緩慢な変化で、ほんとうのO氏はどこに存在しているのか、実はO氏の実態というものは、この3次元に投影されている波動なんだし故に同じ状態で止まっているわけではない。S君の勝手な思い込みや、それだけじゃない、S君の記憶の歪みやら解釈やらが時々刻々のO氏を ”S君の創造しているO氏” に決めつけ縛り付けているだけのような気もする。

O氏の頭の中は依然として霧に覆われミステリアスなのだけれど、仲良くおしゃべりもできるし、スローなだけでS君よりははるかに上質な想念を持っているし、余程ポジティブ思考だ。”不毛、不治”といった概念の茶番に右往左往しているのはやはり、、、小さな小さなS君なんだろう。か?

〜〜〜続く

O氏の治療歴, そして今これから。その18

2022年6月21日、化学治療・キモセラピーの ”タクソル” 98 mg 注入の5回目である。朝、ニューヨーク市に向かう中距離バスの中で、ふと、S君に何かが降りてきたような感覚。すぐさま、それをO氏に伝える;あのさー、多分今日の血液検査で ALP の数値がすごい減っていると思うよ。直感なんだけどさ。するとO氏はニコニコして、うん、なぜか僕も調子いいなあって思うんだよね、とのこと。

おい、おい!この状態はやはり 化学”タクソル” が影響しているのか、キモセラピーに暗示かけられているだけなんだよ。そんなふうに、つい最近までのS君はザワザワと自らうるさくして何事も否定的に懐疑的に捉える人でもあった。でももう今は、ひとえに明るいイメージ。瀕死の肝臓君がそれでいいよ、今はね、と言っているようなものだから、必然的にO氏の意識は少し軽くなっている。S君はそれでも気は抜けない、だって、副作用は突如襲うし壊滅的になる、、、ま、いいか。

で、有難いことにALPの限りない数値の減少が今日現実に!まだもちろん、危険水域であるけれど、一息を付けられそうかな。というのが今回の結論。S君が初耳だったのは、この”タクソル” キモセラピーは、3回(1週間に一度)をワンサイクルと呼び、サイクルとサイクルの間に1週間の休暇(笑)を与えられ、次のセカンドサイクルに進む、そして終了、と理解していたので、さらにもう一つ、合計3x3=9回(3サイクル)の治療になると決定されてしまったなんて!! 主治医の検査ではALP数値と減り方の兼ね合いで、もう一つサイクルが重要らしい、そうです。ということはあと4回残されているんですね。

ほぼツルツル頭と眉毛とまつ毛なしのO氏、、やっと半分の道程を終えたばかり、、そうなると、キモの9回終了時には全身ツルツルの、よくある宇宙人そのもののイメージになってしまうかもしれない。(ごめんなさい、S君の会った”宇宙人” という現象はその辺の当たり前の人間の姿に擬態している、か、昆虫そのものの見せ方だったのです。なので、宇宙人の捉え方は10人10色の個々の解釈なんだと思う。)

おしゃべりしていたら、O氏本人は若い頃に ビパッサナ瞑想 をやっていたこと(それを今知ったS君!!!)若くやんちゃな頃はパンクロッカーで楽器を弾き、その頃から、ま、(割愛)様々な影響もあり本人の趣向や興味もあり (割愛)ただ、気をつけつつずっと生きてきたけれど、それはさておきO氏は昔から風邪をひくと治りは早いが咳は数ヶ月、それをS君は知っていたものの深く心配してこなかった。大陸横断ドライブでも、O氏は眠気覚ましに不慣れな強いタバコを吸ったっけ。懲りずに、大型トラックでのアリゾナ引っ越しまでやってしまったんです。やはりタバコが運転中の目覚ましがわり。

無茶も過ぎる、大概にしてくださいよ。二人とも、気負いばかりで全く身体に敬意を払っていなかった。。。喧嘩もたくさんしてきたし過半数はS君にも責任あるのは明白。このO氏の病気がキッカケで、さらに二人は双方の気付きと赦し(許し)を促される。

面白いことに、心が軽くなると、それをサポートするかのようなことがやってくる。”治療”という状況が縦横無尽にその見えざる触手を伸ばし、あらゆるカテゴリーと繋がり、小心者のS君などはどうしよう、あたしが死ぬまでにどこまでこの奇跡としか思えないあたしたちの存在・現象界を理解できるだろう、とため息をつく。例えば、ガンの歴史、を調べると途方も無い太古にそのミイラからガン腫瘍の痕跡が発見されているそうだ。それは即、人類発祥の歴史も地球の歴史も宇宙の成立も全てが絡んでくる。

〜〜〜続く

O氏の治療歴、番外編:ガン細胞とテロメア

正常細胞の寿命をつかさどる「テロメア」

テロメアとは染色体の先端部分を保護している塩基配列および構造のことです。細胞分裂を重ねるたびにテロメア領域は少しずつ短くなっていきます。そしてテロメア長が初期の長さの半分ほどまで短くなったときに,DNAの複製ができなくなり細胞分裂が起こらなくなります。研究の結果人間の細胞の分裂回数の上限は約50回とわかったそうです。(ヘイフリック限界と呼びます。)この現象が「細胞老化」です。正常な細胞には寿命があり,年齢が増えるとともに老化した細胞の比率が上昇します。人間の老化と細胞の老化にはこのような間接的な相関関係があると考えられています。

テロメアの仕組みを理解すればすべてが見えてくる。

DNAは長い2本の紐というイメージは持っていただけたと思います。裁縫などをするとよくあることだと思いますが,糸の先端ってほつれやすいですよね? DNAも同じで,ただの2本鎖では先端が傷つきやすいです。その先端を守っているのがテロメアなのです。DNAの先端には「AGGGTT」という配列が大量に繰り返された領域があります。この配列が「ここが先端だよ」ということをアピールしている部分になります。本のしおりのようなものですね。

がん細胞と正常細胞の違い

がん細胞は人体にとって敵ですが,外部からやってきた成分ではありません。もとはといえば私たちの細胞だったものががん細胞に変わってしまったのです。ではがん細胞と正常細胞の違いはどこなのでしょうか。発現遺伝子や染色体異常など様々な違いが挙げられますが,がん細胞は無限に増殖できるという特徴を持っています。正常細胞は寿命があるため,ある種の秩序が保たれています。若い細胞と死にゆく細胞が混在することで細胞の総数がほぼ一定に保たれているのです。しかしがん細胞は「テロメラーゼ」という酵素を持っていることで無限に増殖できるようになり,体内で腫瘍を形成してしまうのです。

テロメラーゼの機能

テロメラーゼの役割は「細胞分裂の際に短くなったテロメアを元に戻すこと」です。この仕組みのためにがん細胞は細胞分裂をしてもテロメアが短くなることはありません。どれだけ分裂しても寿命が来ない=無限に増殖できてしまいます。がん細胞がどんどん大きく成長してしまうのはこのためなのです。

テロメラーゼのしくみ

ここからはイラストを使って解説しますね。DNAを複製すると下図のように5末端が少し短くなってしまいます。ここまではがん細胞も正常細胞も同じです。

しかしがん細胞ではテロメラーゼが豊富に発現しているため,3末端を1単位分伸ばすことができます。これは建物を建てるときの足場のようなイメージです。

ピンク色部分の足場を起点にしてテロメアの隙間を埋めていったあとは足場を取り払って完成です。元通り同じ長さのテロメアに戻っていることがわかるでしょうか?

がん細胞は寿命を決める。 寿命を決めるテロメアの仕組み

O氏の治療歴, そして今これから。その17

2022年、6月14日。2週間を経てキモセラピー ”タクソル” 4回目。時間をかけての点滴注入は、こちらではインフュージョンと呼ばれ、S君にはどうも馴染めない耳障りな感じがある。そうだ、アリゾナではレジメンと呼ばれていた。要するに、抗がん剤をどのようにオーガナイズするか、そして計画するか、等々。ともかく、すべての不協和音はS君自身のわだかまりに由来する。仕方ないです、O氏が化学治療を受けたいのだから口出しは止めた。

そう思った途端、驚くことに、突然!風向きが変わった。S君は心の中のモヤモヤ感が吹き飛んだような晴れやかな気持ちになる、とても軽い。

血液検査ではまだまだアルカリフォスファターゼの数値が通常の約5倍は高い。この意味するところはO氏の場合でいうと肝臓に問題が起きているのは明白であり、それゆえに腹水も生じている。それでも微妙に数値が下がってきているのは嬉しい。なんだか有り難い。検査のおかげで状態が判明し一喜一憂するけれど、全てチームワークなんだ。外の世界も内の世界も巨大なネットワークで出来上がっており、欠けているものも停滞しているものも何もないんだ。全てが不確実な、同様に明快な一つのリズムまたは波動と呼ばれるエネルギーなのだ。ただ、そこに在る。

O氏じゃないんだ、O氏と思い込んでいるだけで、この人体の皮膚の下では途方もなく精密で緻密な、あらゆる臓器が意思と意味と方向性を持って、神々しいまでに完成されたメカニズムに添って動かされている。そのメカニズムに不都合が生じて、それが具現化しているんだ。ということはO氏の肝臓に、肺がんと呼ぶ総称にまずはリスペクト。感謝と受容。そうなんだ。

もう、自然に任せて!という意志を感じる。O氏、という現象を信じていよう。数値を見ながら肝臓の状態を把握して、その流れで腹腔穿刺(ふくくうせんし)手術の日取りを決める。

〜〜〜続く

O氏の治療歴, そして今これから。その16

5月24日から1週間を置いて、4回目のキモセラピー ”タクソル” は6月7日に予定されている。最初はO氏の頭髪がパサパサ乾いているような状態になった。O氏は割と油っぽい体質なので(笑)手入れをせずとも頭髪はピカピカ艶良く、白髪や、つむじ周りの薄さは天然ウエービーヘアなので気にならない。知り合った当時のゴージャスで変わり者で長髪だったO氏はちょっとカリスマがかっていたっけ。時は過ぎ行く、そしてどこに向かうのだろう?

多分、2回目のキモが終わったあたりかな。ヘアブラシにピカピカした銀髪がガバっと張り付いてゆく、その回数と量が止まらない。やがて、床中にピカピカヘアが漂い始めた。O氏本人も気になるのか、髪の毛がそこら中に飛ばぬよう気配りもあるのか、帽子を昼も夜も被り出した。どんどん加速して毛が抜けてゆく。S君はこれらの抜け毛を集めてシャンプーする。お人形たちにヘアピースを作るらしい。

ある日、いつものようにO氏はベッドでくつろいでいた。いささか初夏の陽気で暑いっちゃ暑い、そんな昼下がり。えー!どうしたの?臨月? S君は見ているものを信じられない。1年前の危篤の時もそうだったけど、こんな大きなお腹じゃなかった。O氏はそんなS君の反応に驚いたのか、半身を起こす。 『ちょっと。なあにこのお腹? どうしたんだろう、凄く大きくなってるよ。腹水じゃないの?』O氏曰く、『いや、僕も最近から腹が膨らんできてるなあって、気にはなってるんだよ。でも大丈夫だよ』

何が大丈夫なものか! ダメだ、O氏に頷いてはいけない。S君は大至急、この変化を診療看護師に伝える。主治医にも看護師にもスケジュールが有るのですぐには会えない、が1日早く病院直行になった。それが6月6日のこと。

血液検査では、肺に血栓らしきものが発生したかもしれず、同様に、お腹の膨らみが肝臓からくるものか(状況によっては、骨や胆嚢の不都合)突き止めるため、スキャンを取る。その結果待ちでこの週に予定されていたキモはキャンセル。よってキモセラピー・タクソルは2週間お休みになった。翌日、6月7日に看護師からの連絡で、肝臓の大きい腫瘍は変化なし、ただし小さいものが新たに出現している、とのこと。すぐにではないが早いうちに腹腔穿刺(ふくくうせんし)をすることになった。(腹水を抜く、同時にその内容物を調べる)

腹水、に関してS君はかなり調べを付けてありその都度、はあーっと、たまった息を吐く。O氏に関しては、この症状が肝臓の不具合からきているのは間違いない、と言って、肝臓機能が改善されれば腹水も減る、というのは聞いたことがない。O氏の眉毛とまつ毛はいよいよ薄くなり、どうかすると見知らぬ人のようにも、歌舞伎役者のようにも思える。そんなO氏の頭を撫で、お腹を撫で、明日はもっと美味しくて栄養のあるものを作ろう、とS君は我が身を奮い立たせる。

〜〜〜続く

O氏の治療歴, そして今これから。その15

2022年5月24日、O氏の3回目のキモセラピー、”タクソル” 98ミリグラム。今回のキモセラピーのスタート時に伝えられていたが、3回(3週)続けて1週間はお休み(もちろん、分子標的治療薬・ローブレナと抗凝固剤・エリキュイスはそのまま摂取)そして後半の3回(3週)が控えて居る。

肝臓の数値は少しずつ下がってきては居るが、まだまだ危険水域でどうにも高すぎる。今日の血液検査で白血球をサポートする ”ペグフィルグラスティム” という注射がセッティングされた模様。化学治療の補佐というのかしら、キモののちに24時間経ってから自動的に薬が体内に入るよう、小さなカートリッジのような何かのケースのようなものがしっかりO氏の腕に取り付けられており、時間が来ると自動的に注射針が腕に突き刺さり、よって注射器内部の薬が体内に吸収される。。。単純にいうならば、このように腕に取り付けられて相手側?に間違いなくコントロールされるわけで、こちらから翌日病院に出向く手間がはぶけるし、確実にこのショットが24時間後に否応無く体内に入り込む次第。

、、S君はこわごわ調べをつけて目の前がブラックアウトしてしまった。何?なに?なんなんだ、この処置は??なんなんだ、これは????

医療に従事する専門職の方々、ドクターもプロフェッサーもどうぞ無知のS君を見逃してください。けれど、どう調べても、”遺伝子組み換え”という文字が飛び込んでくる。そこで、腹をくくって英語バージョンで調べをつける。これだとストレートに意味が入ってこないので、勝手に(?)S君には優しい形で(?)つまりはショックを限りなく抑える方法で翻訳すれば良いものね。

ともあれ言えることは唯一、キモセラピーの副作用・弊害で”発熱性好中球の減少” を抑制するためらしい。効能としては、まあ、身体の白血球を増やす、成長を促す、ために重要らしいです。。。嘘っ子でもなんでも良いです、悪さをせず白血球がサポートされるのであれば、、、、なんでも、この好中球、というものは白血球の中で一番多く占められているそうな。

それで、晴れて5月25日、”ペグフィルグラスティム” 自動的に終了。小さな虫の触角ほどの注射針だったのが印象に残った。

〜〜〜続く

O氏の治療歴, そして今これから。その14

2022年5月17日。2回目のキモ治療、”タクソル” 98ミリグラム。実は、このような容量もそれ以上詳しくは聞けない。医薬品会社そのものの企業秘密も関係しているのだろう。ありがたいことにO氏の診療看護士はとても良い人で、疑問の起きる度にS君はメイルすることもままあるのだが、無駄のないきちっとした信頼おける返事や回答をその都度いただく。

ことに ”ローブレナ” を取り始めてから、副作用による緩慢なブレイン・フォグはずっと続いている。いわゆる、スローになるというのか頭の回転が鈍るというか、頭の中に靄(もや)・霧(きり)が広がるかのように不確かな状態になり、考えることや集中することが困難になる。最近のニュースによると、コロナ感染の後遺症でも過半数の症状がブレインフォグに酷似しているのが気にかかる。

O氏のケースは脳の炎症ではなく脳のガンそのものだったけれど、脳を人の中枢・コントロールタワーと置き換えてみれば、脳にひたすら感謝して寄り添いたくなる。日を追ってS君とO氏の会話は、ちぐはぐに度合いがかかり、ここしばらくS君は『ちょっと、聞いてるの?』と苛々する。S君は不確かなイングリッシュスピーカー、加えて日本語も入れて話すものだから、ブレインフォグに拍車のかかるO氏には到底間髪置かぬ返答なんて無理なのだけど。。 『知ってるでしょ、僕が日本語わからないことを!英語で喋ってよ!』と切り返される。

それが原因か、O氏は時々、’何故日本人は英語が話せないのか’ ’日本語解釈脳と英語解釈脳’ のようなビデオを見ていたりする。

、、、、O氏との足掛け16年は、自閉症スペクトラム(または高機能自閉症・アスペルガー)といかに折り合いをつけるか、の果てのない(時には不毛と思える)積み重ねだった、と、S君は述懐する。 とはいえ、S君そのものも実父との確執・その精神的後遺症に長く悩まされてもいたので、宇宙人のようなO氏には数限りなく助けられてきている。”ノレンに腕押し”というのかな、決してこちらの望む答えは期待できない、実に残念ではある。ところが逆に精神分析者やカウンセラーと話しているかのように錯覚することも多い。O氏との会話で、例えばS君は喋りながら、同時にそのおしゃべりを自らが傾聴しつつ分析している。あたかも心模様を第三者のように鮮明に把握し、理解する。(これは言うまでもなく、相手からの的確な受け答えを得られない、と言う諦めにつながる、勿論、そうじゃないことも多いので、ま、半々というところでしょう)

またS君は、O氏があたかも彼女の母親のように、彼女の父親のように演じるのを気に入って居る。こんなふうにお互いがお互いを癒しあって気付きの深さや豊かさに向かって居るのかもしれない。

〜〜〜続く