『第一章 プエルトリコの空はいつも青い 第二章 貧困と麻薬 第三章 ジャクソンハイツの長屋 第四章 異文化の中で奮闘する 第五章 二〇二〇年三月』
この本は、美会子さんがテキスタイルデザイナーとして働いていた、テキスタイル会社の同僚だったリョウ和田さんが1970年から今日まで、ニューヨークのヒスパニックコミュニティーで国際結婚を通して、多民族国家アメリカを肌身で知った体験を、同じく国際結婚をしている美会子さんが、和田さんの体験エピソードの原文を元に、インタビューを重ね、主人公(リョウ和田さん)がアメリカについて学んでいくというスタイルにして、美会子さんのアメリカ理解を加えて彼女が執筆したものです。
1969年、当時20代だった主人公はヨーロッパへ。そして1年後にはニューヨークへやってきます。滞在を数ヶ月過ぎた頃、数日の旅行で行ったプエルトリコでプエルトリカンの女性と出会い、いわゆる出来ちゃった結婚をすることに。そして彼女とニューヨーク、ヒスパニック・コミュニティーで3人の子供を持つ家庭を築き、アメリカ主流の白人文化とも日本とも違う異文化の葛藤の中で暮らすことになったというメインストーリーに加えて、今日のアメリカ社会の問題などが語られます。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
私はある時期、スパニッシュ・ハーレムで仕事をしていた。この地域はどっさりのプエルトリカンが住んでいる。プエルト・リコの人々はまず明るい。そして騒々しい。ことに プエルトリカン・ディ <—(クリック)に出くわしてしまったら最大限の笑顔でいよう。「あたしゃアジア人だけど、アンタ達のカルチャー大好きよ。」馴染みがあろうとなかろうと、最大限の共感を見せてあげよう。あたかも家族のように。本能的に彼ら・彼女らは相手の表情を読み取る。と言って動物本能ではなくて、『あんた、あたしを好き?嫌い?』といった、とても人間的な意味で。
美会子さんから『出版記念に、』と彼女の本を受取った時、多分これまで理解していたはずのプエルト・リコ、というカテゴリーが覆されるんじゃないか、と思った。以前、推敲前に読ませていただく機会はあったものの、この読み応えある一冊の書物を前に、私の知っているプエルト・リコがくすんでしまうんじゃないかしら、と、思いもした。
ーー 例えば深夜、家路を急ぐ地下鉄終着駅の人通りも疎らな繁華街のショーウインドウ越しに、思わず二度見してしまう蠱惑的で美味しそうで極彩色の、でもきっと甘すぎるかケミカル味か、妙に記憶してしまうラティーノのケーキ屋さん。そうだよ、このケーキ屋さんは買ったことがないだけで私にはお馴染みなんだ。通るたびにチラ見する。でも、夜も更けてくると何だか様子が違う、知っていたはずの記憶がケーキの表面にゴテゴテ塗りまくられた青や赤、黄色や白に塗り替えられ、初めて対面したかのように幾分か緊張してしまう。まさにこんな感じ。
ページは進む。決してストップしない。明日まで待つのが嫌だから、一足飛びに次の章をめくる。おやおや、、やっぱり最初から順番に読み進めるのね、そうじゃ無いと、さらに美味しいケーキ攻めになる。ケーキという形象の人生の生き様。
そうか。プエルト・リコという甘さでトッピングされてはいるけれど、絶妙な ”夫婦愛” そして ”家族愛” そして ”人類愛” そして全編を貫いている受容と赦し。文化や歴史の背景、その異なり・隔たりを加味しても、二人して時々刻々をともかくも歩んできた軌跡。、、、私はここまで、他界した我が夫を、夫との暮らしを受容していただろうか。記憶は動く。後悔なしに、きっといつか答えはやってくるだろう。
神舘美会子/Mieko Mitachi ウエッブサイト <–(クリック)