とても大切な二人 、 再び8月27日/ 2022

捻じ曲がってどこから手をつければ良いのやら、”私” という有様、その真実の集大成の解明の旅を無意識に促してくださった 唯一無二の恩人である Y. N. さん。和歌・短歌・現代詩・仏教教義・ジャズ・前衛・藝術に造詣深く、類まれな誠実な人。私の全生涯でこれほどに謙虚な人を私は知らない。

Y.N. さんのお気に入りの詩人、谷川俊太郎 『62のソネット』から#62

世界が私を愛してくれるので
(むごい仕方でまた時にやさしい仕方で)
私はいつまでも孤りでいられる

私に始めてひとりのひとが与えられた時にも
私はただ世界の物音ばかりを聴いていた
私には単純な悲しみと喜びだけが明らかだ
私はいつも世界のものだから

空に樹にひとに
私は自らを投げかける
やがて世界の豊かさそのものとなるために

……私はひとを呼ぶ
すると世界がふり向く
そして私がいなくなる

〜〜 こちらは同じく8月27日生まれの日本を代表して余りある宮沢賢治。”世界”を通り越して”宇宙”と同等の果てのない概念。おそらくはその前世で類い稀な高僧ではなかったか?そしてどこかY.N. さんと宮沢賢治は私の中で双子のように重なっている。『目にていふ』は、賢治の死後、弟・清六に発見された。『群像』昭和21年10月創刊号より〜〜

だめでせう
  とまりませんな
  がぶがぶ湧いてゐるですからな
  ゆふべからねむらず
  血も出つづけなもんですから
  そこらは青くしんしんとして
  どうも間もなく死にさうです
  けれどもなんといい風でせう
  もう清明が近いので
  もみぢの嫩芽(わかめ)と毛のやうな花に
  秋草のやうな波を立て
  あんなに青ぞらから
  もりあがつて湧くやうに
  きれいな風が来るですな
  あなたは醫学會のお歸りか何かは判りませんが
  黒いフロックコートを召して
  こんなに本気にいろいろ手あてもしていただけば
  これで死んでもまづは文句もありません
  血がでてゐるにかかはらず
  こんなにのんきで苦しくないのは
  魂魄なかばからだをはなれたのですかな
  ただどうも血のために
  それを言へないのがひどいです
  あなたの方から見たら
  ずゐぶんさんたんたるけしきでせうが
  わたくしから見えるのは
  やつぱりきれいな青ぞらと
  すきとほつた風ばかりです

O氏の治療歴, そして今これから。その24

8月16日、なんとか頑張りましてO氏のキモセラピーは一旦おしまい。翌週のスキャン、その結果でキモを続行するか終了するか、が、決定される。S君にしてみればキモは大概にしてほしい!それどころかずーっと服用している分子標的薬・ローブレナの減量を願っている。両足のくるぶしを中心のむくみはまずくない??むくみ防止の薬と、副作用で浮腫みの出る薬と、キモだ何だに拠る血栓予防の薬、、、O氏の左上腕には、この三回連続のキモセラピーによる副作用防止のため、お馴染のペグフィルグラスティム (損なわれた白血球を化学物質で取り戻す)の注射針設置の箱がくっついている。正確に翌日の午後6時半になると針が発動し(立ち上がり)自動ショットが なされる。

〜〜 さて、22日のスキャンとMRIの結果、頭の中は全く問題無し。がん細胞は相も変わらずそのままステイブルである、ちょっとは縮んだものも。肝臓の腫瘍はかなり落ち着いてはいるけれども ’肝硬変’ の疑い濃厚、数値が再び跳ね上がってしまっている。ってなわけですので肝臓専門の先生のアポも取ることやら、もう少しキモセラピー(タクソル)を続けましょう、とのお達し。来週からまた、3週連続のタクソル化学治療ですね。O氏のポヤポヤ頭は元々がウエービーヘアなので、見た目はキューピー人形のように可愛らしい。

。。。。

先日出かけたスタンフォードでは、どでかい一軒家と(部屋数が多くて覚えきれない’ 笑)周囲ぐるりの庭付きで1200ドルという家賃。破格値といえばそうなのでしょう、。airB&Bでも合宿所でもアーティストの貸しスタジオでも、何でもビジネスは可能だろうね、もしここを終の棲み家に決めるなら。

被さってくる樹々、山の頂の高さで林が連なっている。くねくね柔らかなカーブの道路沿いに牧場が現れる、それでもなかなかたどり着かない。、、、、、遠すぎる。ニューヨークには車で4時間はかかるだろうし、冬は雪の中だろうなあ。じっくり落ち着いて小説とかエッセイとかを書くには最高かしら、、ご縁なさそう。

ロケーションとか広さ、などで探すと大抵のニューヨーク物件は家賃が2000ドルより上、っていうことは日本円で換算すると約30万円の家賃?!随分昔に初めて来た頃は確か平均で4〜500ドル内外で大抵の場所やスタジオ、は借りられたっけ。日本のレントより随分安いんじゃない?って驚いたよね。今は、例えばS君たちの住む郊外・ニューバーグで(ニューヨークまで車、電車、バスいずれも片道1時間半かもっと)それでも日本円換算の20万近い家賃を払っているわけ。しかも、『え〜!安いね〜!』って言われることがしばしば。どうしたって絶対に変じゃない?

大家さんのご都合で、S君O氏の住む建物は売りに出されていた(!)。ニューヨーク市内はどちらかといえば店子擁護法律かな(なので、店子の立ち退きが生じても解決するのは時間がかかる)、なんとなく郊外は、大家さん擁護の法律のように感じられる。『予期せぬ引越し』という機運。きっと知らない間に次に運ばれるための用意ができていたのかな。じゃあ安心して良い物件が転がってくるのを待ったほうがいいね。 〜〜〜〜 続く

Stamford, NY. etc : スタンフォード、あれこれ

キャッツキルの山間にはウッドストックやスタンフォードなど、いくつか楽しい小さな町がある。お友達がフリーマーケットに参加するということもあって、ニューバーグから車で2時間のスタンフォードに出かけた。

In the mountains of the Catskills, there are some fun little towns. Woodstock, Stanford, etc. Our friends were going to participate in the flea market, so we went to Stanford, which is a two-hour drive from Newburgh.

借りているコミュニティーガーデンには主に水やりに出かけねばならない。ナスターシアムは枯れかけていた。3種類のトマトはこれから、というわけで今日の収穫はこちらです。

We must go out to the Community Garden mainly for watering. Nasturtium is dying. 3 kinds of tomatoes are just growing, so today’s harvest is here.

Wish Upon a Star, “Wish Exhibition” : 星に願いを。”お願い事の展覧会”

The Day 5 August, Japanese time is THE DAY OF THE HIROSHIMA BOMB, every year and same day we come together in front of the Consulate General of Japan, NYC. and call for “No More Nuke! No More War!”. Mr. Shigeru Hanaoka came from Japan and was joining this demo and Wish Festival opening, he did great speech and was playing saxophone. We were so great feeling !

同じ5日、日本時間での8月6日、広島に、ついで9日は長崎に原子爆弾が投下された。毎年決まってこの日はニューヨークの領事館前で平和裡のデモをする。花岡蔚(しげる)さんも日本からこちらに来ており、素晴らしいスピーチと音楽を披露してくださった。

O氏の治療歴, そして今これから。その23

8月9日、この日はO氏の合計で九回目の最後の最後のキモセラピー、と信じていた。つまりは前以て言われていた3X3=9という図式。前回は8月2日、いささか体調を崩してO氏は7月26日の週を休んだ。ので、結構延期も続いたものか、間の空いたキモセラピーさよならね。タクソルくん、ありがとねー。

人ごとのように書こう。病院としては、毎週一回で3回(3週)がワンセット、という流れがO氏の事情で延期になったことで、結局は今週が2回目、来週で晴れて連続3回目、のキモなんだって! その計算ちょっと変。つまりは、何らかの事情で来週のアポをキャンセルする、と仮定してみよう。すると、、、再来週から再び、最初の1回目のキモ、と計算され、っていうことはすんなり3週連続でタクソル・キモ治療を受けない限り、永遠にキモが終了しない、という理屈が成立する。。

しかも強いドースを今回も注入された。。。もう怒ったS君。危険水域のタクソル・キモの量を減らすよう交渉。同時に、O氏自身も『モルモットは嫌ですねー』とやんわり伝えた。

可愛くない患者(に、空恐ろしいケアギバーと思われているであろうS君)っちゃあそれまでだけど、今回、初めて!!!O氏が主治医にきっちり考えを伝えたのはとても嬉しい。ここしばらくO氏のアポと主治医の日程が合わず、それで大抵は診療看護師任せになってきていたこともあり、O氏の遠慮とそれゆえのS君の不信感は募ってきている。誤解を生じさせないためにも初心に戻って、O氏はしっかり疑問や考えを主治医に直接伝えなくては。

主治医ももちろんこちらの意向を理解してくださり、ちょっとした滞りが一気にスーッと流れた感じ。少なくとも患者が不信感を募らせないためにも、顔と顔でのコミュニケーションは必然だし、患者は自分に行われている治療を堂々と、正しく尋ねる権利はあるのだもの。患者=主治医=信頼関係。

ALP・肝臓値は今回も下がっており、とてもありがたいことです。

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8日はコミュニティガーデンに出かけた。S君はこの暑さにお手上げ、ではあるけれど歩行訓練もあるし、車ばかり使ってはいられない。早朝に40分ほどの距離を歩きトマトを収穫。あれほど茂っていたケールの株はすべてグランドホグに食い荒らされ仕方なく根こそぎさよーなら。さもないと、味をしめた彼が舞い戻るのは間違いないし、なんとか頑張っているカラードグリーンも食われてしまう!!

どうしちゃったのか、ケアフルなO氏がガーデンの網のフェンスに足を引っ掛けてしまい、先日のS君に続き今回はO氏、大転倒!!!左手のひらの惨憺たる傷以外はオーケー。

なにこれ? なんでー? ねー、なんでなのー? すべての厄払いはS君の転倒でおしまいって疑いもしていなかった。二人とも見える傷なので嘘も言えない。ひたすらO氏の傷がちょっとでも落ち着くことのみ念じている。完璧にこれは全てコメディだよね、S君は改めて確信する ーー 全て絵空事なんだ。目が覚めたら何もなかったのだろうなって。ただ、、、いささかコメディもすぎやしませんか?

〜〜〜 続く

7月16日のビデオ撮り:Video taken on July 16th

7月16日は、ジャパンソサエティにて『宮本和子:挑む線』展に合わせてのライブパフォーマンス のビデオ撮り。出演アーティスト;中馬芳子(コンセプチュアル・アーティスト、振付家、スクール・オブ・ハードノックス芸術監督)、ロバート・ブラック(コントラバス奏者)、ジェイソン・カオ・ワング(ヴァイオリン・ヴィオラ奏者)、クリストファー・マッキンタイア(トロンボーン奏者・TILT Brassディレクター兼共同設立者)

Saturday, July 16, 2pm and 5pm

This newly commissioned performance brings to life the works on view in Kazuko Miyamoto: To perform a line (exhibition now extended through July 24). Yoshiko Chuma, conceptual performing artist, dancer, choreographer and director of The School of Hard Knocks, combines movement and improvised music, erasing the boundaries between onstage and backstage, and between artistic practices. In 1979, Chuma performed among Miyamoto’s string constructions installed as part of the artist’s solo exhibition at A.I.R. Gallery (Yoshiko Chuma in Kazuko Miyamoto: A Girl on Trail Dinosaur). Now, Chuma reconnects with Miyamoto through this event, which runs throughout the entire gallery space. The performance also features three musicians: double bassist Robert Black, viola and violinist Jason Kao Hwang and trombonist Christopher McIntyre.

Concept and direction by Yoshiko Chuma, Artistic Director of The School of Hard Knocks.

please click here all about performance detail

”自由にやっていいよ” と言われて緊張がマックス。 いざパフォーマンスが始まるやいなや、私じゃない何者かがウオークインしたのか勝手にカメラを動かし勝手に撮っていた!! (ような感覚) 心ははやるのに、一向に編集作業に没頭できない。一瞬のタイミング、今だ!という心の点火を待つ。

When I was told, “You can do whatever you want,” my tension was maxed out. As soon as the performance started, I wondered if someone other than me had walked in, and the camera was moving and taking pictures extremely freely! I can’t immerse myself in editing work at all, even though my heart is excited. Wait for the momentary timing “NOW”, and the ignition of the heart.

O氏の治療歴、番外編:刀根健(とねたけし)さん

これまでも、癌の闘病記録やブログ、などなど勇気ある幾多の方々の本音の言葉や文章に感銘を受け、力を与えられていたS君。ところでこの1週間前だったかしら?7月の下旬なのだったか、本当にひょんなことでこの刀根健さんを知った。

刀根さんは数年前ステージ4肺がんを宣告され、負けるものか、死ぬものか、とあらゆる努力、(あらゆる代替)治療を試み、文字通り名医に会いに出かけ、名著を読み漁り、ガンが治ったと聞いたサプリメントから中国薬草、食事療法から体温を上げる方法、気功・歩行は言うに及ばずハンドヒーリングから合宿に至るまで24時間、全てを試しその結果ガンが全身を覆ってしまい完全にギブアップ。その時、刀根さんに突然シフトが起こり全てを明け渡したという。(サレンダー)

入院、放射線治療、その流れで思わずの分子標的薬のアレセンサ投薬、(それまでの代替治療での努力で、彼の体内環境はかなりクリアな下地が出来ていた、というようなことを書かれている)ゆえに、この分子標的薬を引き寄せた!とも。アレセンサに因るまさに!奇跡的回復。ほぼすべてのがん細胞の消滅。ここに至る心の軌跡をスピリチュアル的に、時には分析的に、時には自身を追い詰めながら刀根さんは書く、どのように彼の自我(エゴ)がより大きな存在に自分を明け渡したか。

日本でのベストセラーにもなっていたらしいし、大変な反響を得たらしい。S君はこれまであらゆる人々からあらゆる情報をいただいてきたと思うのに、『全くもって今の今まで知らなかった』!!!恐らくは、この絶妙なタイミング、加えてS君自身がO氏に対して治療方針の食い違いによる反発といった、S君のエゴを手放したことも大きいのだろうか。

両手にそれぞれ5パウンドのハンドウエイトを持ち、O氏は飄々と腕と上半身を鍛えている。S君はというと、数日前にもそそっかしさゆえか歩道に突き出ていたワイヤーに足を引っ掛けて右上腕〜右膝〜左頬骨をしたたか打っての打撲傷。(ひっくり返ったに至る不思議な話はのちに)

もしかして、寝耳に大水の立ち退き勧告は次なる場所に向かわされている、アップグレードを強要させられている手ごたえのある予感。全てはタイミングなので待ったなし。引越し引越し。ただひたすらこの1週間のローラーコースター並みの速力、、。(事実、8月1日現在、ありがたき友からの情報で、秋にはニューヨーク市内に再び引越しの運び)

〜〜 続く

O氏の治療歴, そして今これから。その22

可もなく不可もなく日常は遠のき、ひたすら暑さとともにあった。O氏もS君もクーラーというのも扇風機もダメで、けれどこのところの猛暑で初めてシーリングファン、というのを使った。古いビルディングなのでかなりの代物だろうに天井に引っ付いた扇風機から吹いてくるエアーはなかなかいい感じ。しかも全くの無音!

19日には数値が落ち着いたということでO氏は7回目のタクソルキモ治療。気になるALP数値もありがたいことに下がってきて、危篤時から思えば半分に減っている。しかし、後2回のキモセラピーを終えてO氏には再びスキャンによる全身と肝臓の精密検査が待っている。

S君は如何かすると プロメーテウス の神話を思い出す。ゼウスの怒りを買い三万年もの間、巨大な鷲に肝臓を啄ばまれる、それは夜になると再生されるが日中は啄ばまれそして再生し、この果てのない責め苦がヘラクレスに解放されるまで続いた!と。なんだかなあ、、すでに3年を経て、O氏の治療は長期戦だろう、そして必ず解放されるだろう。体毛もいよいよ無くなって赤ん坊のようなO氏に、S君はちょいと涙ぐむ。

つい先日、大家さんからO氏とS君の住むビルディングを売りに出したから、と突然の一方的な通達!今年いっぱいのリースは残っているので売れない限り住めるのだろうけれど、やれやれ、、、さあて、もうなんでも来い!という気分。2018年の6月から2022年の7月、この4年間はアリゾナ引越し〜癌治療でニューヨクに舞い戻り引越し〜このニューバーグに引越し〜骨折2回〜新しく引越し予定〜。いやはや、笑っちゃいますね〜。いや、すでに楽しいような気持ちが優ってきている。大笑いの人生だから。

だからと言って、一方的に言われて、はいはいわかりましたよ、っていう軟なS君ではない。と同時にここから引っ越すのであれば一刻も早くしたい、という気持ちが勝る。次行こう!次!!!

ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。*方丈記より

〜〜〜 続く

O氏の治療歴、番外編:『ワクチンは体内でどんな働きをするか』

ワクチンの働き

細菌やウイルスなどの病原体によって引き起こされる、さまざまな感染症への対策として使用されている現在のワクチンには、大きく分けて「弱毒化生ワクチン」と「不活化ワクチン」がある。

弱毒化生ワクチンは病原体の毒性を弱めたものをもとにして製造されるもので、具体的にはMMR(麻疹・おたふくかぜ・風疹)や結核などのワクチンがこの種類だ。一方、不活化ワクチンは病原体の感染する能力を失わせたものを材料として製造されるもので、動画で紹介されていたサブユニットワクチンはこの一種である。HPVの他、インフルエンザウイルスやB型肝炎、日本脳炎などの感染症に対するワクチンはこちらの方法で製造される。

不活化ワクチンだけでは十分な量の抗体を体内で作り出せないことが知られている。そのため、不活化ワクチンには「アジュバント」と呼ばれる物質を添加し、その物質が刺激になって免疫の働きを高めている。例えば、B型肝炎ワクチンにはアジュバントとして水酸化アルミニウムが添加されている。

全く新しいタイプのワクチン

現在、世界中に感染が拡大している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のワクチンのうち、2020年に海外で認可され、日本でも2021年2月から接種が始まったワクチンは、上記のいずれの種類でもなく、全く新しいメカニズムのワクチンだ。

感染を防ぐためには、動画で紹介されていたとおり、抗原に対応する抗体が存在しなければならない。抗原は鍵、抗体は鍵穴に例えられ、それぞれの抗原に特有な抗体が生成されることで感染を防ぐ。弱毒化生ワクチンも不活化ワクチンも、病原体の抗原がワクチンに含まれている。

新型コロナウイルスのワクチンは、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンと呼ばれるもので、ワクチンは抗原ではなく、mRNAが含まれている。新型コロナウイルスのmRNAは、ウイルスから抽出したものではなく、ウイルスが持つものと全く同じものを人工的に合成したものだ。

このmRNAをヒトに投与すると、ヒトの細胞がmRNAを読み取って、新型コロナウイルスの一部であるタンパク質(抗原)を作り出す。すると、このタンパク質はヒトには本来存在しないもの(異物)であるため、この抗原に対応する抗体が作り出される、ということだ。

つまり、従来のワクチンは抗原を接種するもの、mRNAワクチンは抗原そのものをヒトの体内で作り出すためのmRNAを摂取するものという違いがある。

mRNAワクチンの特徴

このmRNAワクチンのメリットは、ウイルスの遺伝情報が分かれば数週間でワクチンを開発することができる、という点だ。ウイルスなどの病原体は変異することがあるが、変異した場合でも遺伝情報さえ入手できれば、速やかに新しいワクチンを開発することが可能という。従来の方法でワクチンを製造するためには、数年から場合によっては十数年の期間を必要とする。短期間でワクチンを製造できることは、新興感染症などの発生時には効果的な対策になる。

一方のデメリットは、このワクチンはこれまで人類が未経験のものであるということだ。従来のワクチンは長い歴史に及ぶ接種データの蓄積があるが、mRNAワクチンにはない。もちろん、ワクチンの使用が承認されるためにはそれぞれの国家で治験のプロセスが必要とされる。今回新たに開発されたmRNAワクチンについても治験が行われ、安全性について確認されている。しかし、治験では接種後数カ月の状況しか明らかにならないため、抗体がどれほど持続するのかなど、長期間の経過についてはまだ分かっていないが、現在、盛んに研究が行われている。

新型コロナウイルスに対するワクチンは、従来の方法によるワクチンの製造開発も行われているが、治験の終了までにはまだ相当な時間が必要だ。人類が未経験という種類のワクチンではあるが、ワクチン接種に対するメリットとデメリットを比べて、どのような選択をするかを各人が判断しなければならない。あふれる情報の中から、信頼できる情報を私たち自身が収集して判断する力が試されているのかもしれない。

出典; ワクチンの働き

O氏の治療歴, 番外編:『免疫』

自然免疫と獲得免疫――体を守るメカニズム

自然免疫とは?

私たちの体には、ウイルスなどの病原体を含めて外部からの侵入を防ぐためのメカニズムが2種類備わっています。それが、自然免疫と獲得免疫です。その仕組みと特徴をご説明しましょう。

まずは“自然免疫”から。病原体が体の外から内側へ侵入しようとすると、最初に物理的・化学的バリアーが立ちはだかります。すなわち、皮膚や粘膜などに存在する殺菌性物質が病原体の侵入を物理的・化学的に防いでいるのです。ただし、ここに穴が空いていると病原体は内部に侵入してきます。そこで次に、白血球の一種である食細胞が病原体を食べたり殺菌したりして病原体を排除する、細胞性バリアーがはたらきます。この2段階のバリアーは通常、生まれつき自然に備わっている免疫機構であることから“自然免疫”と呼ばれます。

自然免疫の特徴は、病原体の侵入に反応するスピードは速いけれど、一度経験した病原体を覚える(免疫記憶といいます)仕組みがないので、再び同じ病原体が入ってきたときに同じ反応を一から繰り返さなければならない点です。

獲得免疫とは?

もう1つの免疫機構が、“獲得免疫”です。病原体が自然免疫の2つのバリアーを突破してしまったら、白血球のうちBリンパ球(B細胞)とTリンパ球(T細胞)の出番です。これが2つ目の細胞性バリアーとして機能します。Bリンパ球は抗体をつくって病原体を排除し、Tリンパ球は感染した細胞を見つけ出して退治します。この免疫機構は生まれてから獲得し発達するため、“獲得免疫”と呼ばれます。

獲得免疫の特徴は初めて出合う病原体の侵入に反応するスピードが遅く(侵入を認めてからリンパ球が増殖し、一定程度まで増えないと撃退できない)、一方で免疫記憶によって一度経験した病原体を覚え、同じ病原体が再び侵入してきたとき速やかに防御できる点です。

出典: 自然免疫/獲得免疫のメカニズム