“グラナダ ” 影山留都
「おばあちゃんが 絵が好きだから」 青年が手に取ったのは柘榴の絵葉書 秋の青空のフリーマーケットには 柘榴の話がふさわしい 「酸っぱくておいしい」 笑顔はおばあちゃんの庭の思い出か 「僕の国ではグラナダっていう」 青年の故国はメキシコ 明るい陽射しに 紅に輝く果実 固い果皮からのぞく雫の形の宝石のような実 その中に満ちるのは 命の水
「グラナダって 手榴弾のことも言う」青年は手に持ち 投げる動作をした 私は驚かない振りをした そして 言葉を言い控えた 「日本にも そっくりの手榴弾があったよ」 あれは自決用だった つややかな陶器の 手榴弾の話はフリーマーケットにそぐわない
柘榴は豊穣の実 心臓や子宮の形 時には損壊した肉体 柘榴は 人間そのもの グラナダって呟くと 手榴弾が柘榴になったら! おまじないをとなえてみる 手榴弾は柘榴になーれ! 銃弾はドングリになーれ! 砲弾はオレンジになーれ! 地雷は土の中でお芋になーれ! ミサイルは縮んで縮んでパパイヤになーれ!
魔法の柘榴の木があって 食べると殺戮者が人間に戻るという その木は どこにあるのだろう? 仙女が守る聖なる園 魔人が隠した谷間の林 小さな蛇が番をする砂漠のオアシス? いえいえ人の心の奥に きっと
2025・1・3