影山留都 散詩集 ”コトノハヅル” から二篇。

六月の雨に

六月の雨に どんな傘を差そうか 静かな雨なら 一食の傘で 暗い空なら 水玉や花模様 天気雨の時は 真珠をのせた里芋の葉の傘もいい 大粒の雨には 番傘もよかった

一番強力なのは 核の傘さ 冗談めかして言う声がする

六月の雨に それを差すの? 非核の傘や 反核の傘 平和の傘だって あるじゃない 軽い口調で応えてみる

小さかったり 穴あきだったり 透明で見えない傘もあるけれど 蕗の葉の下からコロポックルがのぞいたり オウムの顔の柄が しゃべりかけてきたら 初めて自分の傘を持った子供のように スキップしたくなるかもしれない

嵐の時は傘をすぼめたほうが 歩きやすい 核の傘をたためば 六月の雨に たくさんの傘の あじさい模様 雲が切れるのを待てば 地球の差している 二重の虹の 傘が見える

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

身支度

身支度 やっぱり 間違ったんじゃない? 水の作業に行くのに ミリタリー・ルックで気取るなんて

水色のストライプじゃ単純すぎる 水玉模様じゃ子供っぽいって

それならば 伝統的なファッションさまざま 波に千鳥の粋な染め いなせな漁師の渋い縮み 井桁模様の藍の絣か いっそ 流水落花の綾錦

水はこの星そのもの 蜃気楼にうつる山々と 砂漠の底を穿ち流れる川とに 祈りの無いまま 迷彩服で出かけてゆくと 流れは涸れ 水は淀んで あとはたちまち 瓦礫と泥沼