O氏の治療, そして今、新たに始まる。その35

2023年、2月13日(月)この日は先週に匹敵する長い1日になった。それも早朝からなのでした。

S君は毎週の日曜日、12時間の介助の仕事をスタートしており、終了時はすでにニューバーグへ戻るバスや電車が無い、それで、夜はそのまま有り難くお泊まりしている。大抵は、翌朝の介護さんの来る9時頃までそのまま仕事先で過ごしていたが、先週からO氏の緊急治療が月曜日になった為、早めに失礼、その足で病院に向かう。

朝の7時過ぎにO氏と病院ロビーで待ち合わせ。そうです、腹腔穿刺の4回目。先月27日は腹水を9リットル抜き、17日間を経た今日は8.5リットル抜いた。腹腔内に水が溜まる速度と、悪性腫瘍がはびこる速度は比例しており、故に肝臓専門医の指摘に沿って、腹水は限りなく抜き続けねばならない。何故なら、栄養たっぷりの腹水で満たされた腹腔にはびこりだしたガンさんたちは、いわばお菓子の家を食べまくるヘンゼルとグレーテル。もちろん、グリム童話の彼らのことではありませんよ。

腹腔内をぐるり一周、食い意地の張るお調子者のガンさんたちは食べ物タプタプに囲まれた安全地帯にいるのだから、面白くて、嬉しくて仕方ない。キモセラピーなんて屁の河童。なので、フェイントをかける。栄養タップンの腹水を即抜いて、タクソルを回してあげるわ。

手術もキモセラピーも、治療の内容でその都度場所が変わる。途中、ヨーグルトや栄養ジュース、チーズラップとサーモンを買った後、次なる病院に向かう。血液検査、その解析。

ところがですね。。。血液検査の結果、肝臓部の数値が末期の様相を超えており、パクリタクセル(あの、化学治療のタクソルね)は中止。主治医曰く、最強のキモセラピーを今から行うことは即ち、”死” を意味すると。肝臓値から判明することは全く希望が見られない。あまりにも弱りきってしまいO氏に施せる治療は何もない。肝臓の全面降伏。そうですね、余命宣告でした。

それと、、、O氏は不可解な手術を受けた。S君的には要領を得なかったし、故に質問ということを控えたのであるが、要するになんら治療法がないにも関わらず、O氏の心臓めがけて大静脈カテーテルというのが左腕から入れられた。何かの検査?いよいよのための痛み止めの注入?次回、しっかり聞かねばならない。

S君の不屈の強さはどこへ行った? O氏のメンタルの方がよほど強い。淡々と状況を受け入れ、S君がこのまま年金を受け取れることやら廃車のこと、ギターのこと、機材のことなどこれらを誰々に託す、など決定が素早過ぎる。ちょっと待ってよ、キャンセルだとか、口座閉鎖だとか、ソシアルメディアをストップするとか支払いの振込だとか、なんだかんだO氏に任せっきりでもあったので、ピーナッツ脳のS君はボーッとしてしまう。

、、、改めて書くけれど、ブルックリンへの引っ越しも突然やってきた。占拠者が立ち退き執行の前に、本当に出て行ってくれた、しかも大家のY氏に、占拠者らしいけどまあ人間らしいテキストを送っている。『俺はもう出てゆきます。鍵も返します。もう、ここには来ません』と。O氏にもS君にも友人たちが近く、主治医にも近く、万が一ホスピスに移っても、何が起きてもニューヨーク市内に移るのは悲願でもあった。O氏は自宅でゆっくり日々を過ごしたいって。好きなようにアートをやってちょうだいね。

病院内はもちろん、路上でも帰りのバスの車中でも、ほぼ終日泣き切ったら、急に笑いが生じるS君。 泣こうが笑おうが、くるくる回る地球に重力で縛られていることに変わりは無いのだよ。なあんだ!こんなシステムに甘んじるから煩悩が生じるんだ。何を弱気になっていたんだろう。戦う前に、もう負けている。今が凄いチャンスなんですよ、処置なしっていうことは、こちらでいかなる治療もダイエットも自由なんです。西洋治療一辺倒のO氏に今、シフトが起きたのですよ。まずはすり下ろしたニンジンジュースを作る。

S君はすでに全面降伏している。完璧に全てを宇宙神と心の中に内在する神に委ねている。このような学びを与えてくださってありがとうございます。それだけ。 

〜〜〜〜〜 続く、