捻じ曲がってどこから手をつければ良いのやら、”私” という有様、その真実の集大成の解明の旅を無意識に促してくださった 唯一無二の恩人である Y. N. さん。和歌・短歌・現代詩・仏教教義・ジャズ・前衛・藝術に造詣深く、類まれな誠実な人。私の全生涯でこれほどに謙虚な人を私は知らない。
Y.N. さんのお気に入りの詩人、谷川俊太郎 『62のソネット』から#62
世界が私を愛してくれるので
(むごい仕方でまた時にやさしい仕方で)
私はいつまでも孤りでいられる
私に始めてひとりのひとが与えられた時にも
私はただ世界の物音ばかりを聴いていた
私には単純な悲しみと喜びだけが明らかだ
私はいつも世界のものだから
空に樹にひとに
私は自らを投げかける
やがて世界の豊かさそのものとなるために
……私はひとを呼ぶ
すると世界がふり向く
そして私がいなくなる
〜〜 こちらは同じく8月27日生まれの日本を代表して余りある宮沢賢治。”世界”を通り越して”宇宙”と同等の果てのない概念。おそらくはその前世で類い稀な高僧ではなかったか?そしてどこかY.N. さんと宮沢賢治は私の中で双子のように重なっている。『目にていふ』は、賢治の死後、弟・清六に発見された。『群像』昭和21年10月創刊号より〜〜
だめでせう
とまりませんな
がぶがぶ湧いてゐるですからな
ゆふべからねむらず
血も出つづけなもんですから
そこらは青くしんしんとして
どうも間もなく死にさうです
けれどもなんといい風でせう
もう清明が近いので
もみぢの嫩芽(わかめ)と毛のやうな花に
秋草のやうな波を立て
あんなに青ぞらから
もりあがつて湧くやうに
きれいな風が来るですな
あなたは醫学會のお歸りか何かは判りませんが
黒いフロックコートを召して
こんなに本気にいろいろ手あてもしていただけば
これで死んでもまづは文句もありません
血がでてゐるにかかはらず
こんなにのんきで苦しくないのは
魂魄なかばからだをはなれたのですかな
ただどうも血のために
それを言へないのがひどいです
あなたの方から見たら
ずゐぶんさんたんたるけしきでせうが
わたくしから見えるのは
やつぱりきれいな青ぞらと
すきとほつた風ばかりです