O氏の治療歴, そして今これから。その17

2022年、6月14日。2週間を経てキモセラピー ”タクソル” 4回目。時間をかけての点滴注入は、こちらではインフュージョンと呼ばれ、S君にはどうも馴染めない耳障りな感じがある。そうだ、アリゾナではレジメンと呼ばれていた。要するに、抗がん剤をどのようにオーガナイズするか、そして計画するか、等々。ともかく、すべての不協和音はS君自身のわだかまりに由来する。仕方ないです、O氏が化学治療を受けたいのだから口出しは止めた。

そう思った途端、驚くことに、突然!風向きが変わった。S君は心の中のモヤモヤ感が吹き飛んだような晴れやかな気持ちになる、とても軽い。

血液検査ではまだまだアルカリフォスファターゼの数値が通常の約5倍は高い。この意味するところはO氏の場合でいうと肝臓に問題が起きているのは明白であり、それゆえに腹水も生じている。それでも微妙に数値が下がってきているのは嬉しい。なんだか有り難い。検査のおかげで状態が判明し一喜一憂するけれど、全てチームワークなんだ。外の世界も内の世界も巨大なネットワークで出来上がっており、欠けているものも停滞しているものも何もないんだ。全てが不確実な、同様に明快な一つのリズムまたは波動と呼ばれるエネルギーなのだ。ただ、そこに在る。

O氏じゃないんだ、O氏と思い込んでいるだけで、この人体の皮膚の下では途方もなく精密で緻密な、あらゆる臓器が意思と意味と方向性を持って、神々しいまでに完成されたメカニズムに添って動かされている。そのメカニズムに不都合が生じて、それが具現化しているんだ。ということはO氏の肝臓に、肺がんと呼ぶ総称にまずはリスペクト。感謝と受容。そうなんだ。

もう、自然に任せて!という意志を感じる。O氏、という現象を信じていよう。数値を見ながら肝臓の状態を把握して、その流れで腹腔穿刺(ふくくうせんし)手術の日取りを決める。

〜〜〜続く