O氏の治療歴、番外編:ガン細胞とテロメア

正常細胞の寿命をつかさどる「テロメア」

テロメアとは染色体の先端部分を保護している塩基配列および構造のことです。細胞分裂を重ねるたびにテロメア領域は少しずつ短くなっていきます。そしてテロメア長が初期の長さの半分ほどまで短くなったときに,DNAの複製ができなくなり細胞分裂が起こらなくなります。研究の結果人間の細胞の分裂回数の上限は約50回とわかったそうです。(ヘイフリック限界と呼びます。)この現象が「細胞老化」です。正常な細胞には寿命があり,年齢が増えるとともに老化した細胞の比率が上昇します。人間の老化と細胞の老化にはこのような間接的な相関関係があると考えられています。

テロメアの仕組みを理解すればすべてが見えてくる。

DNAは長い2本の紐というイメージは持っていただけたと思います。裁縫などをするとよくあることだと思いますが,糸の先端ってほつれやすいですよね? DNAも同じで,ただの2本鎖では先端が傷つきやすいです。その先端を守っているのがテロメアなのです。DNAの先端には「AGGGTT」という配列が大量に繰り返された領域があります。この配列が「ここが先端だよ」ということをアピールしている部分になります。本のしおりのようなものですね。

がん細胞と正常細胞の違い

がん細胞は人体にとって敵ですが,外部からやってきた成分ではありません。もとはといえば私たちの細胞だったものががん細胞に変わってしまったのです。ではがん細胞と正常細胞の違いはどこなのでしょうか。発現遺伝子や染色体異常など様々な違いが挙げられますが,がん細胞は無限に増殖できるという特徴を持っています。正常細胞は寿命があるため,ある種の秩序が保たれています。若い細胞と死にゆく細胞が混在することで細胞の総数がほぼ一定に保たれているのです。しかしがん細胞は「テロメラーゼ」という酵素を持っていることで無限に増殖できるようになり,体内で腫瘍を形成してしまうのです。

テロメラーゼの機能

テロメラーゼの役割は「細胞分裂の際に短くなったテロメアを元に戻すこと」です。この仕組みのためにがん細胞は細胞分裂をしてもテロメアが短くなることはありません。どれだけ分裂しても寿命が来ない=無限に増殖できてしまいます。がん細胞がどんどん大きく成長してしまうのはこのためなのです。

テロメラーゼのしくみ

ここからはイラストを使って解説しますね。DNAを複製すると下図のように5末端が少し短くなってしまいます。ここまではがん細胞も正常細胞も同じです。

しかしがん細胞ではテロメラーゼが豊富に発現しているため,3末端を1単位分伸ばすことができます。これは建物を建てるときの足場のようなイメージです。

ピンク色部分の足場を起点にしてテロメアの隙間を埋めていったあとは足場を取り払って完成です。元通り同じ長さのテロメアに戻っていることがわかるでしょうか?

がん細胞は寿命を決める。 寿命を決めるテロメアの仕組み