O氏の治療歴, そして今これから。その16

5月24日から1週間を置いて、4回目のキモセラピー ”タクソル” は6月7日に予定されている。最初はO氏の頭髪がパサパサ乾いているような状態になった。O氏は割と油っぽい体質なので(笑)手入れをせずとも頭髪はピカピカ艶良く、白髪や、つむじ周りの薄さは天然ウエービーヘアなので気にならない。知り合った当時のゴージャスで変わり者で長髪だったO氏はちょっとカリスマがかっていたっけ。時は過ぎ行く、そしてどこに向かうのだろう?

多分、2回目のキモが終わったあたりかな。ヘアブラシにピカピカした銀髪がガバっと張り付いてゆく、その回数と量が止まらない。やがて、床中にピカピカヘアが漂い始めた。O氏本人も気になるのか、髪の毛がそこら中に飛ばぬよう気配りもあるのか、帽子を昼も夜も被り出した。どんどん加速して毛が抜けてゆく。S君はこれらの抜け毛を集めてシャンプーする。お人形たちにヘアピースを作るらしい。

ある日、いつものようにO氏はベッドでくつろいでいた。いささか初夏の陽気で暑いっちゃ暑い、そんな昼下がり。えー!どうしたの?臨月? S君は見ているものを信じられない。1年前の危篤の時もそうだったけど、こんな大きなお腹じゃなかった。O氏はそんなS君の反応に驚いたのか、半身を起こす。 『ちょっと。なあにこのお腹? どうしたんだろう、凄く大きくなってるよ。腹水じゃないの?』O氏曰く、『いや、僕も最近から腹が膨らんできてるなあって、気にはなってるんだよ。でも大丈夫だよ』

何が大丈夫なものか! ダメだ、O氏に頷いてはいけない。S君は大至急、この変化を診療看護師に伝える。主治医にも看護師にもスケジュールが有るのですぐには会えない、が1日早く病院直行になった。それが6月6日のこと。

血液検査では、肺に血栓らしきものが発生したかもしれず、同様に、お腹の膨らみが肝臓からくるものか(状況によっては、骨や胆嚢の不都合)突き止めるため、スキャンを取る。その結果待ちでこの週に予定されていたキモはキャンセル。よってキモセラピー・タクソルは2週間お休みになった。翌日、6月7日に看護師からの連絡で、肝臓の大きい腫瘍は変化なし、ただし小さいものが新たに出現している、とのこと。すぐにではないが早いうちに腹腔穿刺(ふくくうせんし)をすることになった。(腹水を抜く、同時にその内容物を調べる)

腹水、に関してS君はかなり調べを付けてありその都度、はあーっと、たまった息を吐く。O氏に関しては、この症状が肝臓の不具合からきているのは間違いない、と言って、肝臓機能が改善されれば腹水も減る、というのは聞いたことがない。O氏の眉毛とまつ毛はいよいよ薄くなり、どうかすると見知らぬ人のようにも、歌舞伎役者のようにも思える。そんなO氏の頭を撫で、お腹を撫で、明日はもっと美味しくて栄養のあるものを作ろう、とS君は我が身を奮い立たせる。

〜〜〜続く